貸借型契約Ⅱ-賃貸借契約

貸借型契約Ⅱ-賃貸借契約 契約各論

今回の記事は、「契約」の中でも『貸借型契約Ⅱ』として、「賃貸借契約」についてです。

債権各論-貸借型契約-賃貸借契約相関図

01 賃貸借契約とは?

「賃貸借契約」とは、当事者の一方(賃借人)が、他方(賃貸人)からある物の引渡しを受け、賃料を支払って使用又は収益した後に返還する内容の契約のことをいいます。

「賃貸人」には「賃料請求権」があり、「賃借人」には「賃借権」があります。

賃貸借契約

02 賃貸人・賃借人の権利義務

「賃貸借契約」には、賃貸人・賃借人ともに、それぞれに相手方に対する義務があります。

a.賃貸人の義務

使用収益させる義務 賃貸人は賃借人に対し、目的物を使用収益させる義務がある(601条)
修繕義務 賃貸人は、修繕する義務がある
費用を償還する義務

・賃借人が必要費(例:屋根の修繕費)を支出したときは、賃貸人に対し直ちに請求できる(608条)


・賃借人が有益費(例:エアコンの設置費用,下水の開設費用)を支出したときは賃貸借契約終了後に、価値の増加が現存する限りで、請求できる

→ただし、賃貸人は、
 ①賃借人が支出した費用
 ②価値の増加を算定した金額
・・・のどちらかを選んで、支払うことになります。
賃貸人の義務-賃借人が必要費を支出したときは即時に賃貸人に対し請求できる。
賃貸人の義務-賃借人が有益費を支出したときは、契約終了後に現存する限りにおいて請求できる。

賃借人が、賃貸人に修繕が必要であることを通知し、または、賃貸人がそのことを知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に、必要な修繕をしない場合には、賃借人が修繕することができます。(607条の2)

b.賃借人の義務

賃料支払い義務 賃借人は賃貸人に対し、賃料を支払う義務がある(601条)
目的物の保管義務 賃借人は、目的物の保管について、善管注意義務を負う(400条)
目的物返還義務
原状回復義務
賃借人は、目的物を返還するときに、賃借物を受け取った後に生じた損傷があれば、それを「もとに戻す(原状回復)」義務を負う(621条本文)

賃借人には目的物を返還するとき、原状回復義務がありますが、建物の経年劣化によるものや、通常の使用で損傷したもの(例:家具の重みによる床のへこみ)についての原状回復義務はありません。

03 不動産賃借権の物権化

通常、賃貸借契約では、その後に所有者が変わると、賃借人は新所有者に対し、賃借権を主張することができません。

ですが、土地・建物のような不動産では、次のような場合に、賃借権を対抗できます。
(※つまり、①~③の場合には新所有者からの明渡し請求を拒むことができます。)

土地の賃借権 ①新所有者が所有権の登記をする前に、
「土地の賃借権」を登記する(605条)
②新所有者が所有権の登記をする前に、
土地の上の「建物について所有権」の登記をする(借地借家法10条1項)
建物の賃借権 ③新所有者が所有権の登記をする前に、
「建物の引渡し」を受けておく(借地借家法31条)

①~③の場合には、『賃借権(本来なら債権)が「物権化」している』と考えてください。

基礎知識として、「債権」vs「物権」は、「物権」の方が強いです。
だから、「賃借権(債権)」は「所有権(物権)」には劣るのです。

そこを、「賃借権という債権」が「物権に変わった」と考えると、「物権」vs「物権」で、先に登記したほうが優先するということです。

a.借地借家法による対抗要件「借地権」

借地借家法では、次のとおり「借地権」として対抗力を与えています。

・建物所有を目的とする「地上権」
・建物所有を目的とする「土地賃借権」
・・・この2つの場合を『借地権』といいます。
 

04 不動産の賃貸人たる地位の移転

不動産の賃貸人たる地位の移転

賃借人の賃借権が「物権化」している場合には、不動産を譲り受けた新所有者は、賃借人に対し明渡しを請求することができません。

そして、原則として新所有者は「賃貸人の地位」を自動的に取得し、「新賃貸人」となります。
(※旧所有者=旧賃貸人は、賃貸借関係から離脱することになります。)

ただ、この場合に、新賃貸人Cが賃借人Bに対し、「賃料を請求」や「解除を請求」する場合には、Cは所有権の登記をしておく必要があります。(606条の2第3項)

05 賃借権の譲渡 or 賃借物の転貸

賃借権の譲渡と賃借物の転貸
【賃借権の譲渡とは?】
賃借権自体を、他人に譲ることをいいます。
【賃借物の転貸とは?】
例えば、家賃10万円で借りたマンションを、家賃15万円で「又貸し」することを「転貸」といいます。

そして、これらの「賃借権の譲渡」「賃借物の転貸」は、『賃貸人の承諾』が必要です。
仮に、「無断譲渡」「無断転貸」をすると、賃貸人から契約を解除される可能性があります。

適法に、「転貸」が行われた場合には、賃借人は引き続き賃借人のままですが、
「賃借権の譲渡」が行われた場合には、賃借人は「賃貸借関係」から離脱することになります。

a.転貸借と賃貸借契約の解除

賃貸人の承諾がある転貸借が行われた後に、元々の賃貸借契約が解除されるケースは次の2つがあります。

①合意解除
②法定解除

①合意解除

賃貸人の承諾がある転貸借が行われた後に、賃貸人と賃借人(転貸人)との間で合意による「賃貸借契約」の解除が行われた場合のことを「合意解除」といいます。

この「合意解除」の場合では、転借人に解除したことを対抗できません。
→つまり、賃貸人は転借人に対し、明渡しを請求できません。

合意解除-賃貸人は転借人に対抗できない→明渡しを請求できない

②法定解除

賃貸人の承諾がある転貸借が行われた後に、賃借人(転貸人)の「債務不履行」により、賃貸人から「賃貸借契約」の解除が行われた場合のことを「法定解除」といいます。
※賃借人(転借人)の債務不履行の例:数ヶ月に渡って家賃を滞納し続けた

この「法定解除」の場合では、転借人に解除したことを対抗できます。
→つまり、賃貸人は転借人に対し、明渡しを請求できます。

法定解除-賃貸人は転借人に対抗できる→転借人に対し明渡しを請求できる

06 敷金

「敷金」とは、どんな名目によるかを問わず、賃料債務などを担保する目的で、賃借人が賃貸人に差し入れる金銭のことをいいます。
(※賃料債務などの例:滞納していた賃料や原状回復により発生する費用)

a.敷金返還請求権の発生時期

賃借人が賃貸人に差し入れた「敷金」を、賃借人は、「賃貸借契約」が終了して、賃借物を明渡した時に、「敷金」の返還を請求できます。

賃借人は、「敷金の返還」と「目的物の明渡し」の同時履行を主張できません。
賃借人の「目的物の明渡し」が先履行となります。

敷金返還までのながれとしては、①賃貸借契約が終了し、②明渡しとなり、そしてもし「未払い賃料」や「原状回復にかかる費用」があれば「敷金」の中から差っ引き、「敷金」の残額を賃借人に返還するというながれです。

「敷金返還義務」と「建物明渡義務」は同時履行の関係にはなく、「建物明渡し義務」が先履行について、くわしくはこちらからどうぞ▼

b.敷金返還請求の相手方

賃貸人の交代があった場合

賃貸人たる地位が譲受人(新所有者)に移転した場合、「敷金」は旧賃貸人に対する「未払い賃料」があれば、まずは「未払い賃料」に充当されます。

そして、「敷金」の残額は新賃貸人に移転します。

賃借人の交代があった場合

賃借権が譲渡され、賃借人の交代があった場合、特別の事情のない限り、敷金に関する権利義務関係は、旧賃借人のもので、新賃借人には承継されません。

【敷金が新賃借人に承継されない理由】
「敷金」はそもそも、賃借人の「未払い賃料」や「原状回復の費用」の担保として、賃貸人に対し、差し入れているものです。

なので、敷金の返還も元々の賃借人になされるべきで、そうでなければ、元々の賃借人が、新賃借人のために担保を支払っていることになってしまうからです。

07 使用貸借と賃貸借の比較

『貸借型契約Ⅰ』の「使用貸借」契約と、今回の「賃貸借」契約の比較まとめ表は次のとおりです。

  使用貸借契約 賃貸借契約
法的性質 無償・片務 諾成契約 有償・双務 諾成契約
対抗力 ナシ 登記などで対抗力を付けることが可
家主の修繕義務 ナシ
タダで使わせてもらっているので、
修繕費用ぐらい自分で出す
あり
通常の必要費 借主側が負担する

 
費用償還請求の時期 【特別の必要費・有益費】
貸主が返還を受けた時から1年以内
【必要費】直ちに請求できる
【有益費】賃貸借契約終了時
→貸主が返還を受けた時から1年以内
借主の死亡 契約が終了する 契約は終了しない(相続できる)
存続期間 定めナシ 民法上は最長50年

以上、貸借型契約Ⅱ-賃貸借契約に関する、

01 賃貸借契約とは?
02 賃貸人・賃借人の権利義務
 a.賃貸人の義務
 b.賃借人の義務
03 不動産賃借権の物権化
 a.借地借家法による対抗要件「借地権」
04 不動産の賃貸人たる地位の移転
05 賃借権の譲渡 or 賃借物の転貸
 a.転貸借と賃貸借契約の解除
  ①合意解除
  ②法定解除
06 敷金
 a.敷金返還請求権の発生時期
 b.敷金返還請求の相手方
  賃貸人の交代があった場合
07 使用貸借と賃貸借の比較
・・・についてでした。お疲れ様でした。
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