契約総論Ⅰ-契約の分類,同時履行の抗弁権

契約総論Ⅰー契約の分類,同時履行の抗弁権 契約総論

今回の記事は、「契約総論Ⅰ」として、

01 契約の分類
 a.双務契約と片務契約
 b.有償契約と無償契約
 c.諾成契約と要物契約
 d.契約に分類まとめ表
02 同時履行の抗弁権
 a.同時履行の関係にあるorない
  ①「弁済」と「受取証書・借用証書」
  ②「請負人の目的物引渡義務・仕事完成義務」と「注文者の報酬支払義務」
  ③「明渡義務」と「代金支払義務」
  ④「敷金返還義務」と「建物明渡義務」
・・・についてです。

01 契約の分類

民法では、日常生活で一般的な「契約」を次のように分類しています。

a.双務契約と片務契約
b.有償契約と無償契約
c.諾成契約と要物契約

a.双務契約と片務契約

双務契約 契約当事者の双方が債務を負担し合う契約 例:売買・賃貸借・請負・有償委任・有償寄託
片務契約 契約当事者の片方だけが債務を負担する契約 例:
贈与・消費貸借・使用貸借・無償委任・無償寄託

>>『民法/債権/契約総論Ⅱ危険負担,解除/危険負担』へ戻る

b.有償契約と無償契約

有償契約 経済的な支出をする契約 例:
売買・賃貸借・請負・有償委任・有償寄託・利息付き消費貸借
無償契約 経済的な支出をしない契約 例:
贈与・使用貸借・無償委任・無償寄託・無利息消費貸借

c.諾成契約と要物契約

諾成契約 契約当事者の合意のみで成立する契約
(契約当事者の『約束だけ』で成立する)
例:
贈与・売買・書面でする消費貸借・使用貸借・
賃貸借・請負・委任・寄託
要物契約 契約当事者の合意の他に、「物の引渡し」が契約の成立要件となる契約 例:書面によらない消費貸借

d.契約に分類まとめ表

上記の「契約の分類」をまとめた表は、次のとおりです。

贈与 片務契約 無償契約 諾成契約
売買 双務契約 有償契約 諾成契約
消費貸借 利息付き 片務契約 有償契約 要物契約
(書面は諾成契約)
無利息 無償契約
使用貸借 片務契約 無償契約 諾成契約
賃貸借 双務契約 有償契約 諾成契約
請負 双務契約 有償契約 諾成契約
委任 報酬付き 双務契約 有償契約 諾成契約
報酬ナシ 片務契約 無償契約
寄託 有償 双務契約 有償契約 諾成契約
無償 片務契約 無償契約

02 同時履行の抗弁権

同時履行の抗弁権-売主と買主は互いに同時履行の抗弁権を主張できる

「同時履行の抗弁権」とは、
双務契約の当事者の一方が、「相手方が債務の履行」をするまでは、「自己の債務の履行」もしないと拒むことができます。
つまり、『双方、同時に債務の履行をしましょう』という権利のことを「同時履行の抗弁権」といいます。

例:売買
「売主の物の引渡し債務」と「買主の代金支払い債務」は同時履行の関係にあり、
売主「代金支払いを受けると同時に物を引き渡す」 買主「物の引渡しと同時に代金を支払う」

「同時履行の抗弁権」の趣旨としては、双務契約の当事者間の公平を図るためにあります。

【同時履行の抗弁権のPOINT】
・同時履行の抗弁権を主張し続けた結果、弁済期を過ぎてしまっても、「履行遅滞」とはならない
・一度、物を提供したが受け取ってもらえなかった場合、再度、物の提供をする必要がある
(大判明44.12.11)
・裁判で「同時履行の抗弁権」が主張されると、裁判所は『引換給付判決 ※1』をすることになる(大判明44.12.11)
 
※1【引換給付判決とは?】
訴訟において、被告から「同時履行の抗弁権」を主張された場合、原告の請求権を認めつつ、同時に、原告も被告に対して、引換えに給付をするよう命じる判決のことです。

つまり、原告の請求を認めるけれど、原告にも一定の義務が課される判決で、原告の「一部敗訴判決」となります。

a.同時履行の関係にあるorない

「同時履行の関係」にあるかないかをまとめた表は、次のとおりです。

同時履行の関係にある 同時履行の関係にない
①「弁済」と「受取証書(領収書)の交付」 ①「弁済」と「借用証書の返還」(弁済が先履行)
・契約取消・解除における双方の原状回復義務  
  ・「弁済」と「担保権消滅手続き」(弁済が先履行)
②請負人の目的物引渡義務と注文者の報酬支払義務 ②請負人の仕事完成義務と注文者の報酬支払義務
(仕事完成義務が先履行)
③建物買取請求権が行使された場合の、
「土地明渡義務」と「建物代金支払義務」

③造作買取請求権が行使された場合の、
「建物明渡義務」と「造作代金支払義務」
(建物明渡が先履行)
  ④賃貸借契約終了時の、
「敷金返還義務」と「建物明渡義務」
(建物明渡が先履行)

上記の表の①~④のイラスト図解は下記のとおりです。

 

①「弁済」と「受取証書・借用証書」

・「弁済」と「受取証書(領収書)」は同時履行の関係にあります。
・「弁済」と「借用証書」は同時履行の関係にないです。(弁済が先履行)
弁済」と「受取証書(領収書)」は同時履行の関係にあり、「弁済」と「借用証書」は弁済が先履行

②「請負人の目的物引渡義務・仕事完成義務」と「注文者の報酬支払義務」

・「請負人の目的物引渡義務」と「注文者の報酬支払義務」は同時履行の関係にあります。
・「請負人の仕事完成義務」と「注文者の報酬支払義務」は同時履行の関係にないです。
(請負人の仕事完成義務が先履行)
請負人の目的物引渡し義務と注文者の報酬支払い義務は同時履行の関係,請負人の仕事完成義務と注文者の報酬支払義務は仕事完成義務が先履行

>>『債権/債権各論/役務提供型契約Ⅰ/請負契約』へ戻る

③「明渡義務」と「代金支払義務」

【建物買取請求権が行使された場合】
・「土地明渡義務」と「建物代金支払義務」は同時履行の関係にあります。

【造作買取請求権が行使された場合】
・「建物明渡義務」と「造作代金支払義務」は同時履行の関係にないです。
(建物明渡義務が先履行)

【建物買取請求権が行使された場合】
・「土地明渡義務」と「建物代金支払義務」は同時履行の関係にある。

【建物買取請求権が行使された場合】「土地明渡義務」と「建物代金支払義務」は同時履行の関係にある

【造作買取請求権が行使された場合】
・「建物明渡義務」と「造作代金支払義務」は同時履行の関係にない。
(建物明渡義務が先履行)

【造作買取請求権が行使された場合】「建物明渡義務」と「造作代金支払義務」は同時履行の関係にない。(建物明渡義務が先履行)

④「敷金返還義務」と「建物明渡義務」

賃貸借契約終了時の、「敷金返還義務」と「建物明渡義務」は同時履行の関係にはない。
(建物明渡が先履行)
賃貸借契約終了時の、「敷金返還義務」と「建物明渡義務」は同時履行の関係にはない。(建物明渡が先履行)

>>『債権/貸借型契約Ⅱ-賃貸借契約/敷金/敷金返還請求権の発生時期』へ戻る

以上、契約総論Ⅰとして、

01 契約の分類
 a.双務契約と片務契約
 b.有償契約と無償契約
 c.諾成契約と要物契約
 d.契約に分類まとめ表
02 同時履行の抗弁権
 a.同時履行の関係にあるorない
  ①「弁済」と「受取証書・借用証書」
  ②「請負人の目的物引渡義務・仕事完成義務」と「注文者の報酬支払義務」
  ③「明渡義務」と「代金支払義務」
  ④「敷金返還義務」と「建物明渡義務」
・・・についてでした。お疲れ様でした。
タイトルとURLをコピーしました