債権の消滅Ⅱ-相殺

債権の消滅Ⅱ-相殺 債権の消滅

今回の記事は、「債権の消滅Ⅱ」として、

01 相殺とは?
 a.自働債権・受働債権
02 相殺の要件
 a.弁済期と相殺の関係
   相殺不可-自働債権が「弁済期にない」
   相殺可-自働債権は「弁済期にある」受働債権は「弁済期にない」
 b.時効と相殺
03 相殺が禁止される場合
・・・についてです。

01 相殺とは?

「相殺」とは、債権者と債務者が、互いに同種の債権を持っている場合に、一方的な意思表示により、双方の債権を対当額で消滅させることをいいます。

たとえば、AとBが互いに金銭債権を持っている場合に、通常はAがBに、BはAに対し、弁済をしないと債権は消滅しませんが、これを一方的な意思表示だけで互いの債権を打ち消し合って、消滅させることになります。

「相殺」は、「弁済・代物弁済」と同様に、”債権が消滅する”ということで、同じ効果となります。

a.自働債権・受働債権

相殺は、債権者と債務者が、互いに同種の債権を持っている場合に、一方的な意思表示により、債権を消滅させるわけですが、

・相殺をしようと意思表示をしていく側の債権のことを「自働債権」といい、
・相殺の意思表示をされた相手方の債権のことを「受働債権」といいます。
相殺-相殺をしようと意思表示する側は「自働債権」,その相手方の債権は「受働債権」

02 相殺の要件

相殺をするのに適した状態(相殺適状)にあるとするためには、次の要件があります。

1 双方の債権が互いに対立していること(505条1項本文)
2 双方の債権が同種の目的を有すること(505条1項本文)
3 双方の債権が弁済期にあること(505条1項本文)
(※受働債権の期限の利益は放棄することができるので、自働債権が弁済期にあれば相殺は可)
4 双方の債権が性質上相殺を許さないものではないこと(505条1項ただし書)

a.弁済期と相殺の関係

上記の表の中の『3 双方の債権が弁済期にあること(505条1項本文)』に関しては、

受働債権の期限の利益は放棄することができるので、自働債権が弁済期にあれば相殺は可能
・・・ということですが、このことについて、掘り下げて解説します。

相殺不可-自働債権が「弁済期にない」

相殺をしようと持ちかける側の「自働債権」が「弁済期にない」場合には、相殺はできません。

【自働債権が弁済期にない場合の例】

1️⃣AとBは、互いに金銭債権を有していました。
Aが相殺をしようとしている時点は『11/1』

・Aの債権の弁済期は『12/1』→Bは、12/1までに支払えばよい
・Bの債権の弁済期は『10/1』→Aは、10/1までに支払えばよい
Aの債権の弁済期は12/1、Bの債権の弁済期は10/1 つまり、Bは12/1までに支払えばよいので余裕がある
2️⃣この場合に、「Aの債権(弁済期:12/1)」を自働債権として、Aのほうから相殺はできません。
理由は、Aの債権(自働債権)は、弁済期が未到来なので、Bの「12/1までは、まだ支払わなくて良い」という『期限の利益』を奪うことになるからです。
自働債権が弁済期にないと相殺できない。相手方の期限の利益を奪ってしまうので。

この場合、Bは「12/1まで期限がある」わけですが、この「期限までは返済しなくていい」ことを『期限の利益』といいます。

相殺可-自働債権は「弁済期にある」受働債権は「弁済期にない」

逆に、「自働債権は弁済期にある」が、「受働債権は弁済期にない」という場合には、相殺できます。


理由は、受働債権(自分が弁済すべき債務で、相手方の債権)は、まだ弁済期が到来していなくても、自分で「期限の利益」を放棄するのは勝手です。

つまり、自分の意思で「まだ期限が来てないけど、期限より早めに支払う」のは、自由だということです。
自働債権さえ弁済期にあれば、受働債権は弁済期になくても良い。期限の利益を放棄するのは自由だから

b.時効と相殺

「債権」が、時効によって消滅してしまっていたとしても、その「債権」が時効消滅前に、相殺できる状態(相殺適状)であれば、その「債権」を自働債権として、相殺することは可能です。


ではなぜ、時効消滅した「債権」でも、自働債権として相殺できるのかについて、
イラスト図解付きで順を追って、くわしく解説します。

時効消滅する前に相殺適状であれば、自働債権として相殺できるワケ

1️⃣Aは、Bに10万円を貸してあげました。
時効消滅した債権を自働債権として相殺できる-01
2️⃣数年経ち、Bは結局、Aに10万円を返さないまま、Aの債権は時効により消滅しました。
そして、今度は、AがBから10万円を借り受けました。
時効消滅した債権を自働債権として相殺できる-02
3️⃣Aとしては、今回Bから10万円を借り受けたことで、以前AがBに貸し付けた10万円と相殺され、互いの債権債務はチャラだとの認識でした。

ところが、Bは、「オレのAくんへの債務は時効で消滅したけど、Aくんのオレへの債務はまだ時効にはかかってないから、オレはAくんに返さないけど、Aくんはオレに10万円返して」と言ってきました。
時効消滅した債権を自働債権として相殺できる-03 BのAへの債務は時効消滅したが、AのBへの債務はまだ時効消滅していない。この場合に、Bから請求を受けたAとしては、「おまえが言うな」という感じ
【結論】
Bから返済を請求されても、Aにしてみれば、「おまえが言うな」という感じです。
ということで、「時効によって消滅した債権」がその消滅以前に、「相殺適状」にあった場合には、債権者は、自働債権として相殺することができるわけです。

つまり、債権者の「相殺への期待」を保護する趣旨です。

03 相殺が禁止される場合

「相殺の要件」を満たしていても、当事者が相殺を禁止・制限する意思表示をした場合には、悪意又は重過失の第三者に対抗することができます。(505条2項)

また、次のような場合にも相殺が禁止されます。

「自働債権」としての
相殺が禁止される場合
「同時履行の抗弁権」や「催告・検索の抗弁権」が付いた債権を「自働債権」として相殺することはできない。
「受働債権」としての
相殺が禁止される場合
・悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権(509条1号)※1
・人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権(509条2号)
・差押え禁止債権(510条)
・支払いの差止め(差押え)を受けた債権(511条1項)
※1
趣旨としては、不法行為の被害者に対して、「現実の弁済による損害の補填」を受けさせると共に、不法行為の誘発を防止する点にあります。
なので、逆に「悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権」を「自働債権」として相殺していくのは可能です。
(被害者側が、損害賠償請求権を自ら相殺したいというのは、自由だからです。)

「相殺」は、条件や期限を付けることはできません。
なぜなら、「相殺」は当事者の一方から相手方への一方的な意思表示によってするものだから、ゴチャゴチャと条件なんかは付けれないってことです。

「不法行為等に基づく損害賠償債権の相殺」について、詳しくは下記の外部リンクへどうぞ▼

以上、債権の消滅Ⅱとして、

01 相殺とは?
 a.自働債権・受働債権
02 相殺の要件
 a.弁済期と相殺の関係
   相殺不可-自働債権が「弁済期にない」
   相殺可-自働債権は「弁済期にある」受働債権は「弁済期にない」
 b.時効と相殺
03 相殺が禁止される場合
・・・についてでした。お疲れ様でした。
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