今回の記事は、憲法>統治>裁判所に関する、
a.法律上の争訟に当たらない判例
板まんだら事件(最判昭56.4.7)
警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8)
02 司法権の限界
a.議院の自律権
警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7)
b.統治行為
苫米地事件(最大判昭35.6.8)
c.部分社会の法理
富山大学事件(最判昭52.3.15)
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰(最大判令2.11.25)
団体の内部事項に関する司法審査まとめ
01 法律上の争訟
裁判所は、三権分立の「司法権」に当たります。
そして、「司法権(裁判所)」では、具体的な争訟について、法を適用し解決します。
具体的な争訟とは、裁判所が判断できる事件で「法律上の争訟」に該当するもののことをいいます。
逆に、たとえば、『国家試験の合格or不合格の判定』のような法令を適用することによっては解決できない事や、具体的な事件を離れて抽象的な法律の解釈を争うようなものは、「法律上の争訟」には当たりません。
a.法律上の争訟に当たらない判例
法律上の争訟に当たらないとして、裁判所では判断しないとされたのが、次の2つの判例です。
・警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8)
板まんだら事件(最判昭56.4.7)
創価学会の元会員が、正本堂建立資金のため寄付をなしたところ、正本堂に安置すべき「板まんだら」は偽物であったことから、寄付行為には要素の錯誤があったことを理由に、寄付金の返還を求めた。
訴え却下
信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する判断が、訴訟の帰趨(きすう)を左右する必要不可欠なものと認められ、訴訟の争点及び当事者の主張立証の核心となっているときには、その訴訟は実質において、法令の適用によっては終局的な解決の不可能はものであって、法律上の争訟に当たらない。
「板まんだら事件」は、” 法令を適用しても、終局的に解決できない ” ということで、裁判所から訴えを却下されました。
『要素の錯誤』について詳しく知りたい方は、『民法/総則/意思表示Ⅰ/ 錯誤』の下記リンクからどうぞ▼
警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8)
警察予備隊(現:自衛隊)は、憲法9条違反である。
裁判所が、具体的な事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限はない。
訴えた国民が、べつに警察予備隊に拘束されたわけでも、暴行を受けたわけでもなかったので、”具体的な事件性が何もない”ということで、法律上の争訟に当たらないとされました。
02 司法権の限界
裁判所は、「法律上の争訟」に当たる事件であれば、司法権を行使できることが原則です。
しかし、『衆参両議院が行う議員の資格争訟の裁判』や『国会が設置する裁判官の弾劾裁判』のような憲法によって裁判所以外の機関が司法権を行使することが認められている場合があります。
このような場合には、たとえ「法律上の争訟」に当たる事件であっても、裁判所は司法権を行使できません。
つまり、「法律上の争訟だから判断しようとすればできるけど、様々な事情から、あえて裁判所が判断することを避けた」みたいな感じが『司法権の限界』です。
a.議院の自律権
「自律権」とは、国会又は各議院の内部事項に関する行為は、国会や各議院が自律的になすべき権利があるということです。
そして、自律権に属する行為は、国会や各議院の自主的な判断を尊重すべきであることから、裁判所は司法権を行使できないとされています。
警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7)
警察法の審理に当たり、野党議員が強硬に反対し、議場が混乱したまま可決とされた。
そのため、その議決が無効ではないかが争われた。
訴え却下
裁判所は、両院の自主性を尊重すべく、警察法制定の議事手続に関する事実を審理して、その有効無効を判断すべきではない。
b.統治行為
「統治行為」とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のことです。
この「統治行為」は、政府・国会等の政治部門の判断に委ねるべきであり、裁判所は司法権を行使できないとされています。
苫米地事件(最大判昭35.6.8)
衆議院の解散が憲法7条のみによってなされたこと、解散の決定過程において全閣僚の一致による助言と承認の2つの閣議がなかったことが、違憲であるかどうかが争われた。
訴え却下
①統治行為の司法審査
直接、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、裁判所の審査権の外にある。
②衆議院の解散の司法審査
衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、このような行為について、その法律上の有効無効を審査することは、司法裁判所の権限の外にある。
c.部分社会の法理
大学・政党などの自主的な団体の内部紛争については、その内部規律の問題にとどまる限り、その自治的措置に任せるべきであり、裁判所の司法審査の対象にはならないとされています。
これを『部分社会の法理』といいます。
富山大学事件(最判昭52.3.15)
国立の富山大学における「単位不認定処分」の効力が争われた。
訴え却下
①部分社会の法理
大学は、国公立か私立かを問わず、自律権な法規範を有する特殊な部分社会を形成しているから、大学における法律上の争訟は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的・自律的な解決に委ねられる。
②単位授与(認定)行為
単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的・自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審査の対象にはならない。
従来の最高裁判所の判例では、地方議会の議員に対する出席停止の懲罰についても、裁判所の司法審査が及ばないとされていましたが、最高裁判所の判例変更がありました。
判例変更により、「地方議会の議員に対する出席停止の懲罰」には司法審査が及ぶこととされました。
その変更された判例が、下記の判例です。
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰(最大判令2.11.25)
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えの適法性が争われた。
適法
出席停止の懲罰は、公選の議員に対し、議会がその権能において科する処分であり、これが科されると、当該議員はその期間、会議及び委員会への出席が停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。
このような性質や制約の程度に照らすと、その適否が、もっぱら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきということはできない。
そうすると、裁判所は、常にその適否を判断することができるというべきである。
したがって、普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となるというべきである。
団体の内部事項に関する司法審査まとめ
団体の内部事項に関する「司法審査あり or なし」について、ザックリとまとめたものが次のようになります。
地方議会 | 地方議会における議員の出席停止処分 | 司法審査あり |
地方議会における議員の除名処分 | 司法審査あり | |
地方議会議長の議員に対する発言の取消命令(最判平30.4.26) | 司法審査ナシ | |
大学 | 大学の単位不認定 | 司法審査ナシ |
大学の卒業不認定 | 司法審査あり |
以上、憲法/統治/裁判所に関する、
a.法律上の争訟に当たらない判例
板まんだら事件(最判昭56.4.7)
警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8)
02 司法権の限界
a.議院の自律権
警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7)
b.統治行為
苫米地事件(最大判昭35.6.8)
c.部分社会の法理
富山大学事件(最判昭52.3.15)
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰(最大判令2.11.25)
団体の内部事項に関する司法審査まとめ