抵当権Ⅱ 法定地上権

抵当権Ⅱ-法定地上権 担保物権

「地上権」とは他人の土地を使用する権利で、土地の所有者と地上権者の間で「地上権の設定契約」をしなければなりません。

ところが「法定地上権」は、ある一定の要件を満たせば、「法律上当然に発生する地上権」です。
土地に対して、自動的に「地上権」が成立し、建物所有者が建物を取り壊さずに、土地を使用し続けることができるという制度が「法定地上権」です。

今回の記事は、この「法定地上権」についてを、イラスト図解付きでわかりやすく解説します。

「地上権」についてくわしく知りたい方は、下記のリンクからどうぞ▼

01 法定地上権についてイラスト図解

法定地上権について、事例を踏まえてイラスト図解でわかりやすく解説します。

Aには、「A所有の建物」と「A所有の土地」がありました。
Aは、Bから1,000万円を借り入れ、これを担保するため、Bに対し「A所有の建物」のみに抵当権の設定をしました。
その後、Aの返済が滞りBの抵当権が実行されて、「建物」をCが競売により買い受けました。
ここで、『建物の所有者はC』『土地の所有者はAのまま』という状態になりました。
この場合には、法定地上権が成立し、Cは建物を取り壊さず、土地を使用し続けることができます。
 
1⃣Aには、「A所有の建物」と「A所有の土地」がありました。
Aは、Bから1,000万円を借り入れ、これを担保するため、Bに対し「A所有の建物」のみに抵当権の設定をしました。
1⃣Aには、「A所有の建物」と「A所有の土地」がありました。
Aは、Bから1,000万円を借り入れ、これを担保するため、Bに対し「A所有の建物」のみに抵当権の設定をしました。
2⃣その後、Aの返済が滞りBの抵当権が実行されて、「建物」をCが競売により買い受けました。
2⃣その後、Aの返済が滞りBの抵当権が実行されて、「建物」をCが競売により買い受けました。
3⃣ここで、『建物の所有者はC』『土地の所有者はAのまま』という状態になりました。
この場合に、Cには「法定地上権」が成立し、建物を取り壊さずに、土地を使用し続けることができます。
ここで、『建物の所有者はC』『土地の所有者はAのまま』という状態になりました。
この場合に、Cには「法定地上権」が成立し、建物を取り壊さずに、土地を使用し続けることができます。

もしもこの場合に、法定地上権がなかったら、「建物所有者(買受人)C」と「土地の所有者A」との間には、契約がないので、Cは不法占拠者となってしまい、立ち退きを迫られます。
そうすると、せっかく買い受けた建物を取り壊すことになってしまいます。
こんな事態を避けるために、「法定地上権」という制度があります。

02 法定地上権成立の要件

法定地上権の成立の要件としては次の4つです。

①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
②抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者だったこと
③土地又は建物の一方又は双方に抵当権が設定されていること
④土地又は建物の所有者が、競売により、別々の所有者となったこと

要件① 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること

要件① 『抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること』

事例 法定地上権が成立する
or
成立しない
a.更地に抵当権が設定された後、建物が建てられた場合(要件①を満たさない) 成立しない
(大判大4.7,1)
b.土地の上に建物が存在し、その土地のみに抵当権が設定された後、建物を取り壊し、建物が再築された場合(要件①を満たす) 成立する
(大判昭10.8.10)
c.土地および地上建物に共同抵当が設定された後、建物が取り壊され、新たに建物が建設された場合(要件①を満たす) 成立しない
(最判平9.2.14)
 

要件①を満たすか満たさないかを基準に覚えるのも、重要だと思いますが、
個人的に覚え方としては「登場人物の視点や感情」で覚えるのが一番理解しやすいと思います。

なので、ここから『抵当権者の視点や感情』『建物所有者の感情』から解説していきます。

a.土地の抵当権者の視点・感情

更地に抵当権が設定された後、建物が建てられた場合
(要件①『抵当権設定当時、土地の上に建物が存在する』を満たさない)
→成立しない
一般的に、「建物が建っている土地」よりも「更地(何も建っていない土地)」の方が、価値は高いといわれています。

そうすると、抵当権者にしてみれば、せっかく「抵当権を取得した時点では、更地の状態」なのに、後から建物が建てられて、そして「法定地上権」が成立します!と言われてしまうと、 ” 土地を所有しても、使う権利は他人にある土地 ” となって土地の価値が下がり、ひいては抵当権の価値も下がります。

それだと「土地の抵当権者」にとってあまりに酷です。

抵当権設定当時、債権者が ” 最初に目で見て「更地」だった ” なら、法定地上権は成立しないです
更地に抵当権が設定された後、建物が建てられた場合(要件①を満たさない)
→成立しない

>>『抵当権Ⅲ 土地と建物の一括競売』へ戻る

b.土地の抵当権者の視点と建物の所有者の感情

土地の上に建物が存在し、その土地のみに抵当権が設定された後、建物を取り壊し、建物が再築された場合(要件①『抵当権設定当時、土地の上に建物が存在する』を満たす)
→法定地上権が成立する
抵当権設定当時に土地上に建物が建っていたので、要件①は満たします。
それに、抵当権者Aとしても、土地上に建物が建っている状態であることを、目でみて把握しています。
つまり、目で見て知った上で、Aは、土地のみに抵当権を取得しているわけです。

なので、土地と建物の所有者Bからすれば、「元々、建物があることは知った上での、土地のみの抵当権でしょう?!」ということで、ならば、建物がいったん取り壊されてまた再築されても、法定地上権が成立するのでなければ、不公平感が拭えません。

だから、この場合には、法定地上権が成立します。
土地の上に建物が存在し、その土地のみに抵当権が設定された後、建物を取り壊し、建物が再築された場合(要件①を満たす)→法定地上権が成立する

c.建物と土地に「共同抵当権」を持つ抵当権者の感情

土地および地上建物に共同抵当が設定された後、建物が取り壊され、新たに建物が建設された場合
(要件①『抵当権設定当時、土地の上に建物が存在する』を満たす)だが・・・
→成立しない
抵当権設定当時に土地上に建物が建っていたので、要件①は満たします。
ですが、法定地上権が成立しないパターンです。
1⃣Aは、Bに対して2,000万円を貸付け、その担保として、B所有の土地と建物の両方に抵当権の設定を受けました。(これを建物と土地の共同抵当といいます。)
土地および地上建物に共同抵当が設定された後、建物が取り壊され、新たに建物が建設された場合-1
2⃣その後、建物が取り壊されてしまいました。
なので、Aの建物に対する抵当権も消滅してしまいました。
つまり、Aのせっかくの共同抵当権は、土地のみの抵当権となりました。
土地および地上建物に共同抵当が設定された後、建物が取り壊され、新たに建物が建設された場合-2
3⃣いったん建物がない更地の状態になった土地に、新しく建物が建設されました。
その「新たな建物」には、Aの抵当権はありません。
(そもそも「新たな建物」には抵当権設定契約はしていないので)
いったん建物がない更地の状態になった土地に、新しく建物が建設されました。
その「新たな建物」には、Aの抵当権はありません。
ここで、Aの視点で考えてみると、
・元々、土地と建物の共同抵当権を持っていたのに、建物の取り壊しにより、建物の抵当権を失った。
・建物に関する抵当権は失ってしまうことになり、土地のみの抵当権となってしまった。
・「新しく建築された建物」には、抵当権はない。
・もし、「新しく建築された建物」に、法定地上権が成立するのなら、土地の価値が下がり、ひいては「唯一、残った土地の抵当権の価値も下がってしまう。

・・・と、このように、「新しく建築された建物」に、法定地上権が成立するのなら、Aにしてみれば、踏んだり蹴ったりです。
元々共同抵当権を得ていたAにしてみれば、新たな建物に法定地上権が認められるなら、踏んだり蹴ったり
4⃣債務者Bの返済が滞り、債権者Aは土地の抵当権を実行し、Cが競売により土地を買い受けました。
債務者Bの返済が滞り、債権者Aは土地の抵当権を実行し、Cが競売により土地を買い受けました。
5⃣B所有の「新たに建設された建物」には、法定地上権は成立しません。
B所有の「新たに建設された建物」には、法定地上権は成立しません。

このように、土地と地上建物に共同抵当が設定された後、いったん建物が取り壊されると、Aの「建物の抵当権」は消滅します。
そして、新たに建物が建設された場合には、その新しい建物にはAの抵当権はナイです。

なので、要件①『抵当権設定当時、土地の上に建物が存在する』を満たしたとしても、「新しい建物」には、法定地上権は成立しません。

上記の事例のような「法定地上権が成立しない建物」について、土地の抵当権者は、土地と建物の一括競売をすることができます。
この点について、くわしく知りたい方は下記のリンクからどうぞ▼

>>『法定地上権が不成立の場合の土地建物の一括競売イラスト図解』

03 抵当権者が複数いる場合の法定地上権の成立

抵当権者が、1番抵当権者・2番抵当権者・・・というように複数いるときの事例です。

事例 法定地上権が成立する
or
成立しない
①土地に1番抵当権が設定された当時は、土地と建物の所有者が異なっていたが、
②土地に2番抵当権が設定された当時には、土地と建物の所有者が同一となった場合
成立しない
(最判平2.1.22)
①建物に1番抵当権が設定された当時は、土地と建物の所有者が異なっていたが、
②建物に2番抵当権が設定された当時は、土地と建物の所有者が同一となった場合
成立する
(大判昭14.7.26)


ここから、土地の場合と建物の場合についてを、イラスト図解付きでわかりやすく解説します。

a.土地に1番抵当権設定当時は所有者が異なっていた場合

最初の「1番抵当権者」の基準では、要件を満たしていなかったが、後の「2番抵当権者」の基準では、要件を満たしている場合には、『1番抵当権者を基準』に見ていきます。

1⃣債務者Yが所有する土地に、Aが1番抵当権の設定を受けた当時は、土地と建物の所有者は異なっていました。
土地→Y所有
建物→X所有
1⃣土地に、Aが1番抵当権の設定を受けた当時は、土地と建物の所有者は異なっていた
2⃣債務者Yが所有する土地に、Bが2番抵当権の設定を受けた当時には、土地と建物の所有者が同一となっていました。
土地も建物も→Y所有
債務者Yが所有する土地に、Bが2番抵当権の設定を受けた当時には、土地と建物の所有者が同一となっていた
3⃣その後、債務者Yは、Aの債権の弁済ができなかったので、1番抵当権者Aが「Y所有の土地の抵当権」を実行し、その「土地」は買受人Cが取得しました。
その後、債務者Yは、Aの債権の弁済ができなかったので、1番抵当権者Aが「Y所有の土地の抵当権」を実行し、その「土地」は買受人Cが取得しました。
4⃣この場合には、『1番抵当権者を基準・1番抵当権者の視点』で見ていきます。

①1番抵当権者Aは、土地の1番抵当権を取得するときに、土地と建物の所有者は、異なる状態だと把握しているので、「法定地上権は成立しない」と捉えていました。
②「法定地上権」が成立してしまうと、” 土地を使う権利は他人にある土地 ” となり、土地の価値が下がってしまうので、1番抵当権者Aにとっては不利益です。
→法定地上権は成立させないことになります。
『1番抵当権者を基準・1番抵当権者の視点』で見ていく

このように、土地に1番抵当権が設定された当時は、土地と建物の所有者が異なっていたが、
土地に2番抵当権が設定された当時には、土地と建物の所有者が同一となった場合には、法定地上権は成立しません。

1番抵当権者を基準に見たときに、土地の1番抵当権者にとっては、法定地上権は不利益だから、成立させないわけです。

b.建物に1番抵当権設定当時は所有者が異なっていた場合

最初の「1番抵当権者」の基準では、要件を満たしていなかったが、後の「2番抵当権者」の基準では、要件を満たしている場合には、『1番抵当権者を基準』に見ていきます。

1⃣債務者Yが所有する建物に、Aが1番抵当権の設定を受けた当時は、土地と建物の所有者は異なっていました。
土地→X所有
建物→Y所有
債務者Yが所有する建物に、Aが1番抵当権の設定を受けた当時は、土地と建物の所有者は異なっていました。土地→X所有
建物→Y所有
2⃣債務者Yが所有する建物に、Bが2番抵当権の設定を受けた当時には、土地と建物の所有者が同一となっていました。
土地も建物も→Y所有
債務者Yが所有する建物に、Bが2番抵当権の設定を受けた当時には、土地と建物の所有者が同一となっていました。土地も建物も→Y所有
3⃣その後、債務者Yは、Aの債権の弁済ができなかったので、1番抵当権者Aが「Y所有の建物の抵当権」を実行し、その「建物」は買受人Cが取得しました。
その後、債務者Yは、Aの債権の弁済ができなかったので、1番抵当権者Aが「Y所有の建物の抵当権」を実行し、その「建物」は買受人Cが取得しました。
4⃣この場合には、『1番抵当権者を基準・1番抵当権者の視点』で見ていきます。

建物の、1番抵当権者Aにとっては、建物に法定地上権が付くことによって、「土地の使用権付き建物」ということで、建物の価値が上がります。
ひいてはAの「建物への抵当権」の価値も上がります。

なので、1番抵当権者にとっては、法定地上権が成立したほうが、利益となります。
→法定地上権を成立させることになります。

このように、建物に1番抵当権が設定された当時は、土地と建物の所有者が異なっていたが、
建物に2番抵当権が設定された当時は、土地と建物の所有者が同一となった場合には、法定地上権を成立させることになります。

1番抵当権者の視点で見たときに、建物の1番抵当権者にとっては、法定地上権が付いていた方が、建物の価値があがり、利益となります。
だから、法定地上権を成立させることになります。

04 土地・建物が共有の場合の法定地上権

土地又は建物が「共有」状態の場合の、法定地上権に成立するorしないをまとめた表が次のようになります。

建物が共有の場合 法定地上権は、成立する
土地が共有の場合 法定地上権は、成立しない

【建物が共有の場合-法定地上権が成立する】

建物が共有の場合-法定地上権が成立する

【土地が共有の場合-法定地上権は成立しない】

土地が共有の場合-法定地上権は成立しない

建物の所有者としては、法定地上権が成立したほうが、「土地の使用権付きの建物」ということで、建物の価値は上がります。
だから、建物が共有の場合は、法定地上権は成立します。

一方、土地の所有者としては、法定地上権が成立してしまうと、「土地を使う権利は他人にある土地 」となってしまい、土地の価値は下がります。
それに、土地の他方の共有者からすれば、借金も抵当権も何も関係がないのに、自分の土地に法定地上権というペナルティを受けるようなものです。

だから、土地が共有の場合は、法定地上権は成立しません。

以上、法定地上権に関する、

01 法定地上権についてイラスト図解
02 法定地上権成立の要件
 要件① 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
   a.土地の抵当権者の視点・感情
   b.土地の抵当権者の視点と建物の所有者の感情
   c.建物と土地に「共同抵当権」を持つ抵当権者の感情
03 抵当権者が複数いる場合の法定地上権の成立
 a.土地に1番抵当権設定当時は所有者が異なっていた場合
 b.建物に1番抵当権設定当時は所有者が異なっていた場合
04 土地・建物が共有の場合の法定地上権
・・・についてでした。お疲れ様でした。
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