今回の記事は、精神的自由権についてです。
「精神的自由権」について、ⅠとⅡに分けています。
03 表現の自由
04 学問の自由
『精神的自由権Ⅱ-表現の自由,学問の自由』については、下記のリンクからどうぞ▼
精神的自由権
「自由権」の中には、精神的自由権・経済的自由権・人身の自由の3つがあります。
精神的自由権は、次のような位置付けになります。
今回の『精神的自由権Ⅰ』では、
02 信教の自由
02-2 政教分離原則
01 思想・良心の自由
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
そして、思想・良心の自由とは、
思想・良心の自由は、他にも、国民がどのような思想をもっているかについて、国家権力が、告白を求めたりすることは許されないとしています。
このように、思想の告白を強制されない自由のことを「沈黙の自由」といいます。
ここから、この「思想及び良心の自由」に関する判例をイラスト図解付きでわかりやすくまとめています。
謝罪広告強制事件(最大判昭31.7.4)
衆議院議員総選挙に際して、選挙に立候補したXが、他の候補者Yの名誉を毀損したとして、裁判所から謝罪広告を新聞紙上に掲載することを命じる判決を受けた。
そこで、候補者Xが謝罪を強制することは思想及び良心の自由の保障に反するとして争った。
合憲
裁判所が謝罪広告の掲載を命ずることは、単に事態の真相を告白し、陳謝の意を表明するにとどまる程度のものであれば、代替執行の手続きによって強制執行しても、加害者の倫理的な思想・良心の自由を侵害するものではない。
国歌起立斉唱行為の拒否(最判平23.5.30)
都立高等学校の教諭が、卒業式において国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを命ずる校長の職務命令に従わなかったところ、これが職務命令違反に当たることを理由に、定年退職後の非常勤職員の採用選考において不合格とされた。
そこで、このような職務命令は、憲法19条に違反するのではないかが争われた。
合憲
当該職務命令が、個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断された場合にも、間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びにその制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
02 信教の自由
憲法20条1項では、国民が好きな宗教を信仰できるという「信教の自由」を保障しています。
国が特定の宗教の信仰を強制したり、逆に、特定の宗教を弾圧することは許されません。
【信教の自由】
【信仰の自由】 心の中(内心)で、宗教の信仰する |
どの宗教を信仰するか、信仰しないかは個人の自由で、心の中(内心)で信仰するかは、自由。 →公共の福祉による制約なし |
【宗教的行為の自由】 宗教活動をする |
どのような宗教活動をするかは、個人の自由。 →公共の福祉による制約を受ける |
【宗教的結社の自由】 宗教団体をつくる |
どのような宗教団体をつくるかは、個人の自由。 →公共の福祉による制約を受ける |
『信仰の自由』は、個人が心の中・内心で宗教を信仰するのは自由なので、公共の福祉も何も、一切制約は受けません。
ですが、『宗教的な行為』や『宗教団体をつくる』ことに関しては、心の中だけではなく、行動を起こしているわけですから、公共の福祉による制約を受けることがあります。
ここから、この「信教の自由」に関する判例をイラスト図解付きでわかりやすくまとめています。
オウム真理教解散命令事件(最決平8.1.30)
宗教法人オウム真理教が行った、
「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」及び
「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」が、宗教法人の解散事由にあたるとして解散命令が請求された。
この解散命令が憲法20条1項信教の自由を侵害するのではないかが争われた。
合憲
・宗教法人法81条に規定する宗教法人の解散命令の制度は、もっぱら世俗的目的によるものであって、合理的である。
・解散命令によって、宗教団体やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまる。
よって、解散命令は、憲法20条1項に違反しない。
剣道実技拒否事件(最判平8.3.8)
市立工業高等専門学校の学生が信仰する宗教(エホバの証人)の教義に基づいて、必須科目の体育の剣道実技を拒否したため、原級留置・退学処分を受けた。
そのことで、この学生が当該処分は信教の自由を侵害するとし、その取消しを求めて争った。
・学校側の措置は、社会観念上、著しく妥当を欠く処分であり、裁量権の範囲を超える違法なものである。
・公立高校が、レポート提出など代替措置をとったとしても、特定の宗教のみを援助したとはいえず、政教分離原則に反しないので、合憲
・剣道実技の履修が必須のものとまでは言いがたく、体育科目による教育目的の達成は、他の体育種目の履修などの代替的方法によっても性質上可能である。
・そして、他の学生に不公平感を生じさせないような適切な方法・態様による代替措置は、目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助・助長・促進する効果を有するものということはできない。
・他の宗教者又は無宗教者に圧迫・干渉を加える効果があるともいえない。
02-2 政教分離原則
憲法は、国民が好きな宗教を信仰できるという「信教の自由」を保障するだけではなく、国家と宗教を分離する「政教分離原則」を採用しています。
理由は、国家が特定の宗教と強く関わり合いをもってしまうと、たとえば、国家が関わっている「宗教A」は優遇され、「宗教B」や「宗教C」には弾圧がなされるということになると、せっかく憲法が「信教の自由」を保障した意味がなくなってしまうからです。
そこで、国家と宗教を分離する「政教分離原則」が導入されています。
国家と宗教の関わり-目的効果基準
国家と宗教は「政教分離原則」が導入されていますが、国家と宗教の関わり合いが全く認められないわけではなく、相当限度を超える関わり合いをもつことを禁止しています。
そして、相当限度を超えるかどうかの判断としては、
②関わったことで、どのような ” 効果(影響)” が生じたか
これを、目的効果基準といいます。
ここから、この「政教分離原則」に関する判例をわかりやすくまとめています。
津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13)
三重県津市が、市体育館の建設に当たり、神式の地鎮祭に対して、公金を支出したことが、憲法20条、89条に違反しないかが争われた。
合憲
愛媛県玉串料事件(最大判平9.4.2)
愛媛県が、靖国神社等に対して玉串料等の名目で公金を支出したことが、憲法20条3項、89条に違反しないかが争われた。
違憲
津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13)と愛媛県玉串料事件(最大判平9.4.2)比較の図です▼
砂川空知太神社訴訟(最大判平22.1.20)
市が、町内会に対して、神社施設の敷地として、市所有の土地を無償で使用させていたことで、市の行為は憲法で定める政教分離原則に違反するのではないかと争われた。
違憲
孔子廟政教分離訴訟(最大判令3.2.24)
市が管理する都市公園内に、儒教の祖である孔子等を祀った施設の設置を許可した上、敷地の使用料を全額免除したことで、憲法で定める政教分離原則に違反するのではないかが争われた。
違憲
政教分離原則に関する判例まとめ表
上記にあげた政教分離原則に関する判例をまとめた表は次のとおりです。
津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13) | 市体育館建設「神式の地鎮祭」に対する公金支出 | 合憲 |
愛媛県玉串料事件(最大判平9.4.2) | 靖国神社等に対して、玉串料としての公金支出 | 違憲 |
砂川空知太神社訴訟(最大判平22.1.20) | 市が町内会に対して、神社施設の敷地として市所有の土地を無償で貸与 | 違憲 |
孔子廟政教分離訴訟(最大判令3.2.24) | 市が管理する都市公園に、孔子廟の設置を許可した上、敷地の使用料を全額免除 | 違憲 |
以上、精神的自由権Ⅰ-思想・良心の自由,信教の自由・政教分離原則に関する、
謝罪広告強制事件(最大判昭31.7.4)
国歌起立斉唱行為の拒否(最判平23.5.30)
02 信教の自由
オウム真理教解散命令事件(最決平8.1.30)
剣道実技拒否事件(最判平8.3.8)
02-2 政教分離原則
津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13)
愛媛県玉串料事件(最大判平9.4.2)
砂川空知太神社訴訟(最大判平22.1.20)
孔子廟政教分離訴訟(最大判令3.2.24)
政教分離原則に関する判例まとめ表