契約以外の債権発生Ⅰ-事務管理・不当利得

契約以外の債権発生原因-事務管理・不当利得 事務管理・不当利得・不法行為

「債権」は、通常「契約」から発生します。ですが、契約以外にも債権発生原因はあります。
『契約以外の債権発生の原因』は、次の3つです。

01 事務管理
02 不当利得
03 不法行為
今回の記事は、この内の『01 事務管理』と『02 不当利得』についてです。

『03 不法行為』については、下記のリンクからどうぞ▼

01 事務管理

事務管理-ただの、おせっかい

「事務管理」とは、法律上の義務がないにもかかわらず、他人のために事務を管理することをいいます。(697条1項)

いわば、” おせっかい ” のことです。
” 他人のために行動する ” という点では、「委任契約」と同じですが、「契約」がないという点が一番の違いになります。

【事務管理の例】
・Aが外出中に、大雨が降ってきて、Aの家の窓が開けっ放しだったので、隣人のBはAに頼まれていないけど、窓を閉めてあげた。
・Bは、Aから頼まれたわけではないが、Aの外出中に台風で、Aの家の屋根が壊れていたので、屋根を修理してあげた。
【事務管理の制度趣旨】
他人に、勝手におせっかいをしてしまうのは、他人の生活への干渉となり、問題になることもあります。
ただ、社会生活を営む上で、相互に助け合いの精神を尊重することも大切です。

なので、「事務管理」は、このあたりのバランスを考えて作られた制度です。

a.事務管理の要件

事務管理には次の4つの要件があります。

◆法律上の義務がないこと
◆他人の事務を管理すること
◆他人のためにする意思はあること
(他人のためだけでなく、共有物の管理費用の支払いのように「自己のためにする意思」が併存してもOKです。)
◆本人の意思および利益に適合していること
(事務管理をする管理者は、本人の意思を知っているとき又は推知できるときは、その意思に従って事務管理をしなければなりません。)

「事務管理」は、例:診療契約の締結のような『法律行為』でも、
また、例:隣家の犬にエサをやるのような『事実行為』でもOKです。

b.事務管理にかかった費用

事務管理の管理者が ” おせっかい ” でしたこととはいえ、管理者が本人のために「有益な債務」を負担した場合には、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することできます。
(702条2項,650条2項前段)

例:Aは、Bが留守中に、台風で壊れた家のドアを修理業者に頼んで、修理していた。
そして、家に戻ったBに、その修理代金を修理業者に支払うようBに言い、Bはそれを支払った。
しかし、管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、これらの請求ができる範囲は、『本人が利益を受けている限度』に限定されます。(702条3項)

c.委任契約と事務管理の比較まとめ

「委任契約」と「事務管理」についての違いは、次のとおりです。

【受任者(委任)・管理者(事務管理)の権利】

  受任者(委任) 管理者(事務管理)
報酬請求権 特約があればOK
(648条1項)

(そもそも、勝手にやったおせっかいだから)
費用前払い請求権
(649条)

(そもそも、勝手にやったおせっかいだから)
費用償還請求権
(650条1項)
本人に有益な費用のみOK
(702条1項)
代弁済請求権
(650条2項)
本人に有益な債務のみOK
(702条2項)
損害賠償請求権
(650条3項)

(そもそも、勝手にやったおせっかいだから)

【受任者(委任)・管理者(事務管理)の義務】

  受任者(委任) 管理者(事務管理)
善管注意義務
(644条)
原則:◯
例外:緊急事務管理の場合は、✖
報告義務
(645条)

(701条,645条)
受領物引渡し義務
(646条1項)

(701条,646条)
金銭消費の責任
(647条)

(701条,647条)

このように「事務管理」の場合は、基本的に ” 勝手におせっかいでしたこと ” なので、見返りを求めて行うものではなく、後から報酬を請求するとか、できません。

それに、費用の償還にしても、やりすぎたおせっかいとなってしまっては、費用償還できなくなる場合もあるということです。

02 不当利得

「不当利得」とは、法律上の原因なく他人の財産又は労務から利得を得て、そのために他人に損害を及ぼし、その者に対して、不当な利得の返還を命ずる制度です。

【不当利得の例】
Bは、消費者金融業者Aから300万円を借りていたが、誤って500万円弁済というように、利息を払い過ぎていました。
この場合に、Bは、Aに対し、200万円の不当利得の返還請求することができます。
(いわゆる『過払い請求』のことです。)
不当利得返還請求(過払い金請求)

a.不当利得の特則

法政策上の判断として、本来なら成立するはずの「不当利得返還請求権」が認められないとされる場合があります。
次の4つの場合です。

①非債弁済
②期限前の弁済
③他人の債務の弁済
④不法原因給付

①非債弁済

弁済者が、” 債務が存在しないことを知りながら ” 債務の弁済として給付した場合には、その給付したものの返還を請求することができません。
これを「非債弁済」といいます。(705条)

このように、「債務が存在しない」なら受益者側としては不当に利得したことにはなっても、債務者自身で債務が存在しないことを知っていて払ったのだから、いまさら返還請求はできないということです。

②期限前の弁済

債務者は、まだ弁済期がきてない債務の弁済をした場合でも、その給付したものの返還を請求することはできません。(706条本文)

理由としては、弁済受領者としては、「債務者が期限の利益を放棄した」と思って受領し、受領した物を処分してしまうのが通常であり、これを返還させるのは酷だからです。

③他人の債務の弁済

債務者でない者が、錯誤によって債務の弁済をした場合には、弁済者は給付した物の返還を請求できるのが原則です。

もっとも、債権者が「善意」で受領してしまい、
・弁済があったと思ったので、証書を滅失させてしまったor損傷してしまった
・担保を放棄してしまった
・時効によってその債権を失った
・・・このような場合は、弁済者は返還請求することができません。(707条1項)

④不法原因給付

不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することはできません。

【不法原因給付の例】
Aは、Bと愛人関係を維持するために、不動産の贈与契約をしました。
そして、「未登記不動産の場合は引渡し」or「既登記不動産の場合は登記」をした場合には、後になって、AはBに対し、不当利得返還請求権を行使して、不動産の返還を請求できません。
不法原因給付-愛人関係を維持するために、不動産を贈与し引渡した。不当利得返還請求は不可。

以上、『契約以外の債権発生の原因』として、

01 事務管理
 a.事務管理の要件
 b.事務管理にかかった費用
 c.委任契約と事務管理の比較まとめ
02 不当利得
 a.不当利得の特則
  ①非債弁済
  ②期限前の弁済
  ③他人の債務の弁済
  ④不法原因給付
・・・についてでした。お疲れ様でした。
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