今回の記事は、「契約以外の債権発生原因」として、「特殊的不法行為」についてです。
a.監督義務者の責任
b.使用者責任
c.土地工作物責任
d.共同不法行為
01 特殊的不法行為
「一般的不法行為」と「特殊的不法行為」の違いは、次のとおりです。
・「特殊的不法行為」-直接の加害者ではない者が損害賠償責任を負う
a.監督義務者の責任
b.使用者責任
c.土地工作物責任
d.共同工作物責任
a.監督義務者の責任
例えば、責任能力のない10歳の子どもが加害者になった場合に『子どもを監督する責任のある両親』に対して、損害賠償を請求することができます。
①709条に基づくB(10歳の子ども)に対する損害賠償請求はできませんが、
②714条に基づくA(Bの監督義務者)に対する損害賠償請求をすることができます。
子どもが例えば15歳で、責任能力があったとしても、一定の場合には親が「監督者責任」を負うことがあります。(最判昭49.3.22)
①監督義務を怠らなかったこと、又は、
②怠らなくても損害が発生したこと
・・・を立証すれば、監督者責任を免れる(714条1項但書)という規定はあります。
※ただ、ほぼ認められることはなく、子どもがした不法行為を監督義務者が賠償するのが通常です。
b.使用者責任
そこで使用される側の者のことを「被用者」といいます。
使用者Aは、被用者Bがその事業の執行のために、第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。
(715条1項本文)
これを、「使用者責任」といいます。
「タクシー会社A」に務める「タクシー運転手B」が業務中に交通事故を起こしてしまい、Cにケガをおわせてしまいました。
被害者Cは、加害者である「運転手B」に損害賠償請求することができますが、さらに、一定の要件を満たせば、「タクシー会社A」にも損害賠償を請求することができます。
①被用者の選任及びその事業の監督について、相当の注意をしたとき、又は、
②相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき
・・・このようなときは、それを立証すれば、免責されます。(715条1項但書)
①重要判例-暴力団組長(最判平16.11.12)
判例は、暴力団のトップである「組長」と「下部組織の構成員」との間に、暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について、「組長」と「下部組織の構成員」を『使用者』『被用者』として、使用関係を認め、「組長」は使用者責任を負う。
②重要判例-飲食店の使用者(最判昭46.6.22)
飲食店の店員が、自動車で出前に行く途中で、他の自動車の運転手と口論となり、同人に暴力行為をはたらいた場合に、「事業の執行について」加えた損害に該当し、店員の使用者は、使用者責任を負う。
③重要判例-雇用関係にない、一定の指揮監督(最判昭42.11.9)
弟が運転する車の助手席で、兄が弟に対し「行け!」と指示を出した結果、交通事故が発生してしまった。
このような「雇用関係にない場合」でも、「指示を出した兄」と「従った弟」との間に使用関係を認め、兄が使用者責任を負うとされた。
④重要判例-使用者の被用者に対する求償(最判昭51.7.8)
使用者が被害者に損害賠償した場合に、『損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度』において、被用者に求償することができる。
⑤重要判例-被用者の使用者に対する求償(最判令2.2.28)
被用者が、損害を賠償した場合、『損害の公平な分担という見地から、相当と認められる額』について、使用者に求償(逆求償)することができる。
c.土地工作物責任
土地の工作物(例:建物・ブロック)の設置又は保存の瑕疵により、他人に損害を生じたときは、
賃貸人Aが所有する建物に、賃借人Bが住んでいました(占有)が、建物設置の瑕疵により、屋根が崩落して、通行人Cがケガをしました。
①まずは、占有者B(賃借人)が損害賠償責任を負います。
もしBが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、
②所有者A(賃貸人)が損害賠償責任を負うことになります。
d.共同不法行為
数人が共同の不法行為によって、他人に損害を加えたときは、各自が連帯して、その損害を賠償する責任を負うものとされています。(719条1項)
これを「共同不法行為」といいます。
共同不法行為は、各自が連帯責任を負うという点で、「連帯債務」に似ています。
「連帯債務」についてくわしくは下記のリンクからどうぞ▼
AとBは、自動車と自動車の衝突事故を起こし、通行人Cがこの事故に巻き込まれてケガをし、入院することになりました。
この衝突事故は、Aの前方不注意とBの居眠り運転が競合して生じたものでした。
この場合に、加害者Aと加害者Bは各自が連帯責任を負い、双方に全額の賠償義務が発生します。
【共同不法行為】
1 | 数人が共同の不法行為によって、他人の損害を加えたとき(719条1項前段) |
2 | 共同行為者のうち、いずれの者がその損害を加えたかがわからないとき(719条1項後段) |
3 | 教唆者(※1),幇助者(※2)がいるとき(719条2項) |
※1 教唆者:他人をそそのかして「不法行為を実行する意思」を生じさせた者
※2 幇助者:見張り役のような補助的行為により、加害行為を容易に(やりやすく)した者
以上、契約以外の債権発生原因Ⅱ-特殊的不法行為についての、
a.監督義務者の責任
b.使用者責任
①重要判例-暴力団組長(最判平16.11.12)
②重要判例-飲食店の使用者(最判昭46.6.22)
③重要判例-雇用関係にない、一定の指揮監督(最判昭42.11.9)
④重要判例-使用者の被用者に対する求償(最判昭51.7.8)
⑤重要判例-被用者の使用者に対する求償(最判令2.2.28)
c.土地工作物責任
d.共同不法行為