担保物権Ⅲ 先取特権

担保物権Ⅲ 先取特権 担保物権

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先取特権とは、たとえば、

ある会社が倒産したときには、いろいろな債権者が出てきます。
債権者の中には、「その会社に対し、貸金債権を有している銀行」だったり、その会社に勤める従業員の給与を支払っていない場合には、「従業員は給与債権を有している」ことになります。

本来的には、「債権者平等の原則」というものがあり、債権額に応じて平等に分配を受けるのが原則ですが、『法律の定める一定の債権を有する者』は、『他の債権者に優先して弁済を先に取れる権利』というのがあります。

これが「先取特権」です。
この「先取特権」も、留置権と同じように「法定担保物権」です。
今回の記事は、この「先取特権」についてを、イラスト図解付きでわかりやすく解説します。

01 なぜ?先取特権が定められた理由

先取特権は、「法定担保物権」で、” 契約が無くとも自動的に発生する権利 ” ですが、では、なぜ先取特権が法で定められたのかの理由を、事例を踏まえてイラスト図解付きでわかりやすく解説します。

1⃣スーパーマーケットを営むXは、経営が行き詰まり、パート従業員Bに対する今月の給与10万円を支払っていませんでした。
さらに、Xは、A銀行から90万円の融資を受けていましたが、これに対しても返済が滞っていました。
先取特権-Xの債権者には、貸金債権を有するA銀行と給与債権を有するBがいた
2⃣債務者であるXの手持ちの資金は10万円しかない状態でした。
ここで、債権者平等の原則に従って、債権額に応じて平等に分配すると、

A銀行の債権額:90万円 従業員Bの給与債権額:10万円・・・ということで、
Xの手持ち資金10万円を、90万円:10万円=9:1・・・で分け合うことになると、

A銀行には9万円 従業員Bには1万円・・・という分配になってしまいます。
先取特権-債権者平等の原則に従って分配した場合

1ヶ月分の給料が1万円しかもらえない従業員Bは、生活が行き詰まってしまいます。
ここは、やはり、個人の給与債権を先に分配を受けれるよう、保護する必要があります。

そこで、給与債権のような特に保護すべき債権を持つ者には、他の債権者に優先して債権の弁済を受けることができる「先取特権」というものがあるわけです。

3⃣従業員Bの給与債権には、「先取特権」があります。
その先取特権に従った分配によると、Xの手持ち資金10万円から、Bの給与債権10万円は、他の債権者(A銀行)に優先して弁済を受けることができます。
先取特権-雇用関係の先取特権により、従業員の給与債権は優先して弁済を受けることができる
このように、『法律の定める一定の債権を有する者』は、『他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利』として「先取特権」が定められた理由は、一定の債権者を保護すべきだからです。

02 先取特権の種類

先取特権には、次の3つの種類があります。

①一般先取特権・・・総財産を目的とする
②動産先取特権・・・特定の動産を目的とする
③不動産先取特権・・・特定の不動産を目的とする
そして、これら3つの先取特権の中にも、それぞれ種類があります。
ここから、それぞれの種類とその優先順位について、解説します。

a.先取特権の順位

先取特権の3つの種類、①一般先取特権 ②動産先取特権 ③不動産先取特権・・・の中でのそれぞれの種類とその優先順位について、まとめた表が次のとおりです。

①一般先取特権 債務者の総財産の中から優先弁済を受けることができる
第1順位:共益費用の先取特権
第2順位:雇用関係の先取特権
第3順位:葬式費用の先取特権
第4順位:日用供給の先取特権
②動産先取特権 債務者の特定の動産から優先弁済を受けることができる
第1順位:不動産賃貸の先取特権,旅館宿泊の先取特権,運輸の先取特権
第2順位:動産保存の先取特権
第3順位:動産売買の先取特権
③不動産先取特権 債務者の特定の不動産から優先弁済を受けることができる
第1順位:不動産保存の先取特権
第2順位:不動産工事の先取特権
第3順位:不動産売買の先取特権

「先取特権」全体の順位としては、「①一般の先取特権-共益費用」が一番優先され、次に「特別の先取特権」、最後に「一般の先取特権」という順番で優先されることになります。

「①一般の先取特権-共益費用」が一番優先され、次に「特別の先取特権」、最後に「一般の先取特権」という順番で優先される

「共益費用」とは、各債権者の共同の利益のために使った費用のことです。
つまり、債権者全員が「共益費用」のおかげで助かってるわけですから、一番優先されるのです。

一般先取特権の順位の覚え方ゴロ合わせは、「今日(共益) こ(雇用) そ(葬式) 日曜(日用)」です。

①一般先取特権 債務者の総財産の中から優先弁済を受けることができる
第1順位:益費用の先取特権
第2順位:用関係の先取特権
第3順位:式費用の先取特権
第4順位:供給の先取特権

03 重要判例のイラスト図解

平成26年過去問に出題実績のある判例を、イラスト図解付きで、わかりやすく解説します。

ちなみに、下記の判例は、受験生当時はあまりに意味わからなさ過ぎて、丸暗記した覚えがあります。でも、意味がわかればエピソード記憶にもなりますし、順を追って噛み砕いて解説します。

動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部又は一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。

裁決平10.12.18

a.まずは「動産先取特権」と「物上代位」について

まずは、「動産先取特権」と「物上代位」についてを押さえたほうが理解しやすいので、基礎的な事例で解説します。

目的物が引き渡されると先取特権の行使ができない

先取特権の目的物が第三者に引き渡されてしまうと、先取特権者としては、権利行使ができなくなります。
言い換えると『動産先取特権が付いている動産』を取得した第三者に対しては、先取特権者は、先取特権を主張できないのです。

このことを、事例で解説します。

1⃣Aは、Bに対しパソコンを売却しました。
(この時点で、Aは、Bに対し、動産先取特権を取得しています。)
ところが、Bは、Aにはパソコン代金を支払わないまま、そのパソコンをCに転売し、パソコンを引渡してしまいました。
Aは、Bに対しパソコンを売却しました。
そして、Bは、Aにはパソコン代金を支払わないまま、そのパソコンをCに転売し、パソコンを引渡してしまいました。
2⃣すでに、Cへ先取特権の目的物(パソコン)が引き渡されてしまった場合には、Aは、「C所有となったパソコン」への先取特権を行使できなくなります。
すでに、Cに先取特権の目的物(パソコン)が引き渡されてしまった場合には、Aは、パソコンへの先取特権を行使できなくなります。

動産先取特権と物上代位

先取特権は、物上代位が認められています。
つまり、この事例なら、Aは動産先取特権の目的物(パソコン)の売却代金に対して、物上代位することができます。

1⃣Aは、Bに対しパソコンを売却しました。
(この時点で、Aは、Bに対し、動産先取特権を取得しています。)
ところが、Bは、Aにはパソコン代金を支払わないまま、そのパソコンをCに転売し、パソコンを引渡してしまいました。
Aは、Bに対しパソコンを売却しました。
そして、Bは、Aにはパソコン代金を支払わないまま、そのパソコンをCに転売し、パソコンを引渡してしまいました。
2⃣Aは、動産先取特権の目的物(パソコン)の売却代金(パソコン代金)に対し、物上代位行使することができます。
Aは、動産先取特権の目的物(パソコン)の売却代金(パソコン代金)に対し、物上代位行使することができます。

b.本題の重要判例のイラスト図解

動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部又は一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。

裁決平10.12.18

ここから、本題の重要判例をイラスト図解付きで解説します。

1⃣Aは、建設資材(動産)をBに売却しました。
買主Bは、売主Aに動産売買代金を支払わないまま、第三者Cのために請負工事を行いました。
Aは、建設資材(動産)をBに売却しました。
買主Bは、売主Aに動産売買代金を支払わないまま、第三者Cのために請負工事を行いました。

先程のパソコンの事例では、「パソコン(先取特権の目的物)」が第三者に引き渡されると、Aの動産先取特権の行使はできなくなりました。

ならば、今回の場合も、買主Bは「建設資材(先取特権の目的物)」を使って、第三者Cのために請負工事をしているのですから、いわば「引き渡した」のと同じ状態になっているといえますので、Aは動産先取特権の行使はできなくなります。

2⃣ところで、「建築資材(動産)の価格」は、「請負代金全体」に占める割合が高く、「建築資材(動産)の価格」を「転売代金債権」と同視できるぐらいの状況でした。
「建築資材(動産)の価格」は、「請負代金全体」に占める割合が高く、「建築資材(動産)の価格」を「転売代金債権」と同視できるぐらいの状況
3⃣ならば、建設資材(動産)の売主Aは、買主Bの「請負代金債権」を差し押さえて、物上代位権を行使することができます。

早い話が、Aとしては「動産の代金」を未払いなんだから、じゃあ、Bの「請負代金債権」から回収させてもらいますという感じです。

以上、先取特権に関する、

01 なぜ?先取特権が定められた理由
02 先取特権の種類
 a.先取特権の順位
03 重要判例のイラスト図解
 a.まずは「動産先取特権」と「物上代位」について
  ・目的物が引き渡されると先取特権の行使ができない
  ・動産先取特権と物上代位
 b.本題の重要判例のイラスト図解
・・・についてでした。お疲れ様でした。
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