今回の記事と次回記事の2回に分けて、「責任財産の保全制度」についてを解説します。
「責任財産の保全制度」には、『①債権者代位権』と『②詐害行為取消権』があります。
どちらも、” お金を回収し、自分の財産を保全するための制度 ” です。
今回の記事は、まずは『①債権者代位権』についてです。
「責任財産の保全制度」の『②詐害行為取消権』については、下記のリンクからどうぞ▼
01 債権者代位権とは?
債権者代位権とは、債務者が自らの権利を行使しないときに、債権者が債務者に代わってその権利を行使することをいいます。
ここから、債権者代位権について、事例を踏まえてわかりやすく解説します。
債権者代位権イラスト図解付き解説
そして、Bは、Cに対して100万円の貸金債権を有していました。
Bは、無資力であるにもかかわらず、Cに対して100万円の返済を請求しませんでした。
(これが、債権者代位権の行使に当たります。)
Aは、Cから取り立てたお金で、自分の債権を回収することができます。
02 債権者代位権の要件
債権者代位権を行使するには、次の4つの要件があります。
※2 被代位権利・・・代位される側の債権。債務者の「代わりに行使する権利」のこと。
弁済期前でも代位行使OK!-保存行為
原則として、債権者代位権を行使するには、被担保債権が弁済期になければなりませんが、保存行為(例:時効の完成猶予・更新のための請求,未登記の権利の登記)は、例外的に、弁済期がまだ到来していなくても、代位行使することができます。
その『保存行為』の例を、イラスト図解付きでわかりやすく解説します。
1⃣Aは、Bに対して1,000万円(弁済期 7/31)の貸金債権を有していました。
そして、Bは、Cに対して1,000万円( 7/15に時効完成)の貸金債権を有していました。
Bは、無資力であるにもかかわらず、Cに対して1,000万円の返済を請求しませんでした。
03 代位行使できない権利
債権者代位権の要件を満たしていたとしても、代位行使できない場合があります。
【代位権行使できない債権】
一身専属権 | 特定の権利者だけが行使できる権利のこと。 例:「夫婦だから」「親子だから」認められるような権利で、具体的には、離婚請求権や認知請求権等、その人が行使するかしないか決める必要があるもの。 |
差押えを禁じられた権利 | 差押えを禁じられている権利のこと。 例:生活保護 |
04 代位行使の範囲・方法
代位行使の範囲や内容や方法は、次のとおりです。
行使方法 | 裁判上でも裁判外でも行使OK! |
行使できる範囲 | 【目的債権が可分な場合 例:金銭債権】 被保全債権額の範囲内で行使できる(423条の2)★イラスト図解 【目的債権が不可分な場合 例:物の引渡し債権】 被保全債権額を超えて行使することができる ★イラスト図解 |
具体的な請求の内容 | 【金銭債権・動産の引渡請求権】 直接、自己への給付を請求することができる(423条の3) |
【賃貸人の妨害排除請求権】 直接、自己に対して明渡しを請求することができる(最判昭29.9.24) |
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【所有権移転登記請求権】 債務者名義への移転登記請求権ができるに過ぎない。 →つまり、自己名義への移転登記請求をすることはできない。 |
★イラスト図解
目的債権が可分な場合-金銭債権
目的債権が、「金銭債権」のように可分(分けることができる)な場合には、被保全債権額の範囲内で、被代位債権に対し、代位行使できます。
・Aは、Bに対して1,000万円の貸金債権(被保全債権)を有していました。
・そして、Bは、Cに対して500万円の貸金債権(被代位債権)を有していました。
・Bは、無資力であるにもかかわらず、Cに対して500万円の返済を請求しませんでした。
・Aは、Cに対し、500万円まで代位行使することができます。
目的債権が不可分な場合-物の引渡し債権
目的債権が、「物の引渡し債権」のように不可分(分けることができない)な場合には、被保全債権額を超えて、被代位債権に対し、代位行使できます。
・Aは、Bに対して1,000万円の貸金債権(被保全債権)を有していました。
・そして、Bは、Cに対して2,000万円の「不動産の引渡し請求権」を有していました。
・Bは、無資力であるにもかかわらず、Cに対して不動産の引渡しを請求しませんでした。
・Aは、Cに対し、「不動産全部の引渡し」を請求することができます。
ただし、「登記」に関しては、債務者B名義への移転登記は請求できても、自己名義への移転登記を請求することはできません。
05 代位行使の効果
債権者が、被代位権利を行使した場合でも、債務者は、被代位権利について行使することができます。
たとえば、債務者自ら、第三債務者に取り立てたりすることができます。
そして、第三債務者は、債務者に対して支払うことができます。
ここで、債務者B自ら、Cに対して100万円の取り立てをすることができます。
また、CもBに支払うことができます。
06 債権者代位権の転用
被担保債権が金銭債権ではない場合でも、債権者代位権の転用として、行使できる場合があります。
Aは、Bの土地を賃借権をもって、土地を借りました。
ところが、借りた土地には、不法占拠者Cがいました。
この場合、賃借人Aは、賃貸人(土地の所有者)Bの所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、Cに対して、土地の明渡し請求ができます。
以上、「債権者代位権」に関する、
債権者代位権イラスト図解付き解説
02 債権者代位権の要件
弁済期前でも代位行使OK!-保存行為
03 代位行使できない権利
04 代位行使の範囲・方法
目的債権が可分な場合-金銭債権
目的債権が不可分な場合-物の引渡し債権
05 代位行使の効果
06 債権者代位権の転用