今回の記事と前回記事の2回に分けて、「債務者の責任財産の保全制度」についてを解説します。
「債務者の責任財産の保全制度」には、『①債権者代位権』と『②詐害行為取消権』があります。
どちらも、債権者が ” お金を回収し、自分の財産を保全するための制度 ” です。
今回の記事は、『②詐害行為取消権』についてです。
「責任財産の保全制度」の『①債権者代位権』については下記のリンクからどうぞ▼
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01 詐害行為取消権とは?
詐害行為取消権とは、たとえば、債権者が債務者にお金を貸したときにはあった財産を、債務者が積極的にその自己の財産を減少させるような行為(詐害行為)をしたときに、これを取り消す権利のことをいいます。
この制度は、債権者代位権と同様に、強制執行準備のために、「債務者の責任財産」を保全するための制度です。
ここから、『詐害行為取消権』についてのもっともわかりやすい例として「債務者の贈与」についてを、イラスト図解付きで解説します。
詐害行為取消権イラスト図解付き解説
Bは、Aに1,000万円を返済しないまま、1,000万円をCに対し贈与する契約をしました。
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02 詐害行為取消権の要件
詐害行為取消権を行使するには、次の要件が必要です。
a.相当の対価を得てした財産の処分行為
債務者が、『相当の対価を得てした財産の処分行為』の場合、原則として詐害行為とはなりません。
理由としては、たとえば、債務者が、自己の財産である1,000万円の不動産を売却し、1,000万円の現金に変えたとしても、財産の減少にはならないからです。
Bは1,000万円の土地をCに売却し、1,000万円の現金を手に入れました。
この場合には、原則として詐害行為には当たりません。
例外-詐害行為となる場合
相当の対価を得てした財産の処分行為でも、次のような場合には、例外的に詐害行為に当たります。
そして、Cも財産隠しのために売ることを知りながら、Bから不動産を購入しました。
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b.特定の債権者に対する担保の供与・弁済
特定の債権者に対してだけする「担保の供与」や「弁済」は、原則として詐害行為には当たりません。
その債権者も、同じ債権者であることには変わりはなく、債務者は弁済するのは、当然のことだからです。
しかし、次の場合には、例外として、詐害行為に当たります。
①債務者が「支払不能」の時に行われたものであること。
②債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
c.過大な代物弁済等
過大な「代物弁済」を行った場合、たとえば、借金額(債務額)600万円なのに、1,000万円の土地で、弁済の代わりとしたような場合には、詐害行為となり、取消し可能となり得ます。
また、「代物弁済」を『弁済期前』に行った場合には、必要のない弁済と捉えられ、「代物弁済」が過大かどうかは関係なく、詐害行為となり、取消し可能となり得ます。
そしてBは無資力なのに、他の債権者Cに対し、Cの債権額600万円に対し、Bの唯一の財産である土地(1,000万円)で、代物弁済しました。
→詐害行為となり、取消し得ることになります。
d.受益者・転得者への請求
債務者から受益者、受益者から転得者へ順次売買されたケースについて、詐害行為取消権が行使できるかどうかについて、解説します。
そして債務者Bは無資力なのに、自己の土地(1,000万円)をCに贈与しました。
さらに、受益者Cは、Dに対しその土地(1,000万円)を売却しました。
※受益者Cも転得者Dも、債権者Aを害することをわかっていました。
・悪意の受益者Cに対して、売却代金の返還(価格賠償)を請求することができます。
・悪意の転得者Dに対して、土地の返還(現物返還)を請求することができます。
詐害行為取消権の行使の条件
上記の場合の詐害行為取消権を行使できるかどうかの条件についてをまとめた表が次のとおりです。
受益者 | 転得者 | 効果 |
善意 | 善意 | 受益者・転得者の双方に対し、行使できない。 |
善意 | 悪意 | 受益者・転得者の双方に対し、行使できない。 |
悪意 | 善意 | 受益者に対してのみ、行使できる。 |
悪意 | 悪意 | 受益者に対しては、価格賠償を請求することができる。 転得者に対しては、現物返還を請求することができる。 |
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03 詐害行為取消権の対象
「財産権を目的としない行為」は、詐害行為取消請求の対象とはなりません。
理由としては、詐害行為取消請求は『債務者の責任財産の保全が目的』とする制度だからです。
「財産権を目的としない行為」として、詐害行為取消請求の対象とならないものには、次の2つがあります。
・離婚に伴う財産分与(注1)
逆に、「財産権を目的とする行為」として、詐害行為取消請求の対象となるのは、
・離婚に伴う財産分与(注1)で、不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情がある場合
04 詐害行為取消権行使の範囲・方法
詐害行為取消権行使の範囲や内容や方法は、次のとおりです。
行使方法 | 裁判上でしか行使できない。裁判外では不可。(※1) |
行使できる範囲 | 【目的債権が可分な場合 例:金銭債権】 被保全債権額の範囲内で、取消しできる(424条の8) 【目的債権が不可分な場合 例:物の引渡し債権】 被保全債権額を超えて、取消しできる |
請求の内容 | 詐害行為を取り消して、金銭や動産の返還を求める場合 →直接自己に引き渡すよう、請求できる(424条の9) 詐害行為を取り消して、不動産登記の移転を請求する場合 →直接自己名義に移転するよう請求はできない (※債務者名義に移転するよう請求できるに過ぎない) |
行使期間 | 債務者が詐害行為をしたことを、債権者が知った時から2年 又は 詐害行為の時から10年(426条) |
05 債権者代位権と詐害行為取消権の比較
「債権者代位権」と「詐害行為取消権」は、共に『債務者の責任財産の保全を目的』とする制度ですが、次のような違いがあります。
債権者代位権 | 詐害行為取消権 | |
被保全権利 | 原則:金銭債権 例外:転用の場合には、特定債権でもOK |
金銭債権only |
債務者の無資力 | 原則:必要 例外:転用の場合には不要 |
必要 |
被保全債権成立の時期 | 制限は無い | 詐害行為の前に成立していたことが必要 イラスト図解Ⅰ |
被保全債権の弁済期 | 原則:弁済期にあることが必要 イラスト図解Ⅱ 例外:保存行為の場合は、不要 |
制限ナシ イラスト図解Ⅲ |
主観的要件 | ナシ | ①債務者の詐害意思 ②受益者の悪意 |
消滅時効 | ナシ | 債権者が知った時から2年 or 詐害行為時から10年 |
行使の方法 | 裁判上・裁判外でも行使OK | 裁判上での行使が必要 |
イラスト図解Ⅰ 詐害行為取消権-「詐害行為」の前に「被保全債権」が成立していたことが必要
イラスト図解Ⅱ 債権者代位権-代位行使するには、被保全債権の弁済期にあること
イラスト図解Ⅲ 詐害行為取消権-取消権を行使するのに、被保全債権の弁済期は関係ない
以上、詐害行為取消権に関する、
詐害行為取消権イラスト図解付き解説
02 詐害行為取消権の要件
a.相当の対価を得てした財産の処分行為
例外-詐害行為となる場合
b.特定の債権者に対する担保の供与・弁済
c.過大な代物弁済等
d.詐害行為取消権の行使の条件
03 詐害行為取消権の対象
04 詐害行為取消権行使の範囲・方法
05 債権者代位権と詐害行為取消権の比較
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