留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利です。
そして、留置権は、法律が規定する一定の要件を満たすと、当然に成立する担保物権です。
つまり、「法」で「定め」られた担保物権ということで、「法定担保物権」です。
今回の記事は、この「留置権」について、イラスト図解付きでわかりやすく解説しています。
担保物権Ⅰは担保物権全般の基礎知識についての記事です。下記のリンクからどうぞ▼
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01 留置権のイラスト図解
留置権とはなにか?を、事例を踏まえてイラスト図解付きでわかりやすく解説します。
これが、法定担保物権である「留置権」です。
留置権は、契約がなくっても、自動的に発生する「法定担保物権」です。
なので、Bは修理代金を支払ってもらうまで、時計を返さないと主張することができます。
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02 留置権の成立要件
留置権は、法定担保物権なので、” 契約が無くとも自動的に発生する権利 ” ですが、その発生には一定の要件があります。
【留置権の成立要件4つのPOINT】
②債権が弁済期にあること
③占有が不法行為によって始まったものではないこと
④その物に関して生じた債権を有していること(債権と目的物との間に牽連関係があること)
①留置権者が、他人の物を占有していること
留置権の目的物は、債権者(留置権者)の占有する他人の物であればOKです。
つまり、必ずしも債務者の所有物である必要はありません。
②債権が弁済期にあること
期限がまだ到来していないのなら、履行を強制できないことから、債権が弁済期にあることが必要です。
③占有が不法行為によって始まったものではないこと
占有が不法行為によって始まったものであるときには、留置権は成立しません。
たとえば、パソコンを盗んだ者が、そのパソコンの必要費を支出したから、その必要費を返してくれるまで、パソコンを留置するというようなことは認められません。
④債権と目的物との間に牽連関係があること
留置権の成立要件の一つに「牽連(けんれん)関係」が認められる必要がありますが、認められるケースと認められないケースがあります。
【債権と物との牽連関係】
牽連関係が認められるもの (牽連性あり) |
牽連関係が認められないもの (牽連性ナシ) |
a.「借地人の建物買取請求権によって発生した建物代金債権」と「賃貸借契約終了後の土地」の留置 | c.「借家人の造作買取請求権によって発生した造作代金債権」と「賃貸借契約終了後の建物」の留置 |
b.不動産の買主が売買代金を未払いのまま、その不動産を第三者に売却した場合における「売主の買主に対する代金支払請求権」と「その不動産」の留置 | d.不動産の二重売買で一方の買主に所有権移転登記がなされた場合における、「他方の買主の売主に対する損害賠償請求権」と「その不動産」の留置 |
e.賃貸アパートの賃貸借契約が終了した場合における、「賃借人の賃貸人に対する敷金返還請求権」と「その賃貸アパート」の留置 |
ここから、上記 a~e についてを、イラスト図解付きで、わかりやすく解説します。
a.牽連性あり-建物買取請求権と土地の留置
「建物所有を目的」とする地上権や賃借権のことを、まとめて「借地権」といいます。
そして、「建物所有を目的」とする借地権者は、『建物買取請求権』があります。
この『建物買取請求権』と『賃貸借契約終了後の土地』の牽連関係についてを解説します。
b.牽連性あり-不動産代金支払請求権とその不動産の留置
そして売買代金は未払いのまま、Cにその不動産を売却しました。
c.牽連性ナシ-造作買取請求権と建物の留置
借家人には、借地借家法によって、「造作買取請求権」が認められます。
(造作とは、たとえば、エアコン等です。)
この「造作買取請求権」によって発生した『造作代金債権』と『建物』の牽連関係についてを解説します。
そして、賃貸借契約が終了し、BはAに対して造作(エアコン)買取請求をしました。
造作代金債権と建物の関係では、牽連性が認められないからです。
d.牽連性ナシ-損害賠償請求権と不動産の留置
不動産の二重譲渡で、一方の買主に所有権移転登記がなされた場合における、「他方の買主の売主に対する損害賠償請求権」と「その不動産」の留置についてを解説します。
この場合に、Bには、Aに対する損害賠償請求権が発生しますが、その「損害賠償請求権」をもってして、不動産を留置することはできません。
BのAに対する「損害賠償請求権」と「不動産」の関係には、牽連性が認められないからです。
BがAに対する損害賠償請求権で、建物を留置したとしても、もうすでに建物の所有者ではないAにとっては、賠償金を支払う理由にはなりません。
建物を留置されて困るのは、Cです。
つまり、留置権は、「お金を支払わなければ、目的物が返ってこなくて困るから支払う」という関係になければなりません。
e.牽連性ナシ-敷金返還請求権とその賃貸アパートの留置
賃貸アパートの賃貸借契約が終了した場合における、「賃借人の賃貸人に対する敷金返還請求権」と「その賃貸アパート」の留置についてを、解説します。
そして、賃貸借契約が終了したとき、Bは、「家主Aから敷金が返還されるまで、この賃貸アパートの部屋を留置する」という主張はできません。
まずは、アパートの部屋の明け渡しが先で、その後、敷金の返還という順番です。
なので、「敷金返還請求権」と「不動産」の関係には牽連性は認められません。
家主さんは、明け渡された部屋を確認し、「賃借人のせいだと思える修繕箇所」があれば、敷金の中から修繕費用を差っ引いて敷金を返還するというながれになります。
つまり、アパートの部屋の引き渡しは、あくまでも「先履行」です。
先に部屋を明け渡さなければならないので、敷金が返ってくるまで、部屋を留置なんてできません。
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03 引換給付判決
物の引渡しを求める訴訟において、被告側が留置権を主張した場合には、裁判所は、原告の請求を全面的に棄却しないで、「その物に関して生じた債権の弁済」と引換に「物の引渡し」を命ずる ” 引換給付判決 ” をすべきものとされています。
原告側Aは、Bに対して売買代金を支払い、被告側Bは、Aに目的物を引渡しなさい。
(引換給付判決)
04 留置物の保管・使用-善管注意義務
留置権者は、『善管注意義務』をもって、留置物を占有しなければなりません。
また、留置権者は、物の保存に必要な使用を除き、債務者の承諾を得なければ、留置物の使用・賃貸・担保提供をすることはできません。
以上、留置権に関する、
02 留置権の成立要件
①留置権者が、他人の物を占有していること
②債権が弁済期にあること
③占有が不法行為によって始まったものではないこと
④債権と目的物との間に牽連関係があること
a.牽連性あり-建物買取請求権と土地の留置
b.牽連性あり-不動産代金支払請求権とその不動産の留置
c.牽連性ナシ-造作買取請求権と建物の留置
d.牽連性ナシ-損害賠償請求権と不動産の留置
e.牽連性ナシ-敷金返還請求権とその賃貸アパートの留置
03 引換給付判決
04 留置物の保管・使用-善管注意義務
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