契約以外の債権発生Ⅱ-不法行為

契約以外の債権発生原因Ⅱ-不法行為 事務管理・不当利得・不法行為

「債権」は、通常「契約」から発生します。ですが、契約以外にも債権発生原因はあります。
『契約以外の債権発生の原因』は、事務管理・不当利得・不法行為があります。

不法行為(一般的)
・・・についてです。

『事務管理』と『不当利得』については、下記のリンクからどうぞ▼

01 不法行為とは?

不法行為-故意or過失による加害行為に対し、損害賠償請求

「不法行為」とは、故意又は過失によって「他人の権利」or「法律上保護される利益」を侵害し、これによって、他人に損害を生じさせることをいいます。

そして、不法行為を行った者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。(709条)

「加害者」と「被害者」の間には、契約はありませんが、損害を ” 責任がある加害者 ” に賠償させるという点で、『損害を賠償する義務』と『損害を賠償してもらう権利』というように、不法行為も「債権が発生する原因」となります。

a.不法行為の要件

「不法行為」の要件は、次の6つがあります。

1 加害者に「故意」又は「過失」があること
2 加害者に「責任能力」があること
3 他人の「権利」又は「法律上保護される利益」を「侵害」すること
4 損害が発生していること
5 「加害者の行為」と「被害者の損害」との間に「因果関係」があること
6 「違法性阻却事由」がないこと

①加害者に「故意」又は「過失」があること

「加害者に故意又は過失があったこと」は、被害者側で立証しなければなりません。
理由は、「契約関係のない、全くの他人」に損害賠償債務を負わせることになるからです。

②加害者に「責任能力」があること

「責任能力」とは、自分がした行為が違法なものとして「非難されるものであることを認識できる能力」のことです。

未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負いません。
(712条)
精神上の障害により、自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあるときに、他人に損害を加えた者は、『故意又は過失によって一時的にその状態を招いたとき』を除き、その賠償の責任を負いません。(713条)

③他人の「権利」又は「法律上保護される利益」を「侵害」すること

「権利」の他に、「法律上保護される利益」が被侵害利益とされています。

例:プライバシー権・名誉等

④損害が発生していること

「損害」とは、「不法行為があった場合」と「なかった場合」との利益状態の差を「金銭で評価」したもののことをいいます。

⑤加害者の行為と被害者の損害との間に「因果関係」があること

不法行為の要件として、「行為」と「損害」との間に「相当な因果関係」があることが必要とされています。

⑥違法性阻却事由がないこと

「違法性阻却事由」とは、普通であれば「不法行為」を構成するような行為であっても、不法行為が成立しないこととなる特別の事情のことをいいます。

「違法性阻却事由」として、法律上、明文で認められているものは、

・正当防衛
・緊急避難

・・・があります。

【正当防衛(720条1項)と緊急避難(720条2項)】

  正当防衛
(720条1項)
緊急避難
(720条2項)
要件 ①他人の不法行為に対し、
②「自己又は第三者」の「権利又は法律上保護される利益」を防衛するため、
③やむを得ず「不法行為者又は第三者」に対して加害行為をしたこと。
①他人の物から生じた急迫の危難に対し、
②これを避けるため、
③その物を損傷したこと。
効果 行為の違法性が阻却され、損害賠償責任を負わない。
第三者から不法行為者に対して、損害賠償請求することができる。  

02 不法行為の効果

a.被害者以外の近親者の慰謝料請求

近親者の慰謝料請求

不法行為による被害者は、加害者に対する損害賠償請求権が認められるわけですが、被害者以外の近親者についても固有の慰謝料請求が認められています。

【被害者以外の近親者の慰謝料請求の例】
Aは、過失により交通事故(不法行為)をおこしてしまい、被害者Bは死亡しました。
故Bには妻Cと子Dがいました。
この場合に、妻Cと子Dにも固有の慰謝料請求が認められます。(711条)

b.過失相殺

不法行為において、被害者にも過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます。
これを、「過失相殺」といいます。(722条2項)

【過失相殺の例】
交通事故の被害者Aは、スマホを見ながら道路にいきなり出てきて、そこで交通事故に遭ってしまった。
 
「過失相殺」の対象となる被害者の過失は、被害者本人と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者に過失があるときは、被害者の過失として「過失相殺」の対象となります。(最判昭51.3.25)
過失相殺-被害者側の過失

【被害者側の過失の例】

被害者側の過失に当たる例 ①「子(被害者)」の損害賠償請求における「親の過失」
②「妻(被害者)」の損害賠償請求における「夫の過失」
※夫婦の婚姻関係が既に破綻している場合は除かれます。(最判昭51.3.25)
③交代しながら二人乗りでバイクの暴走行為をしていた者の過失
(最判平20.7.4)
被害者側の過失に当たらないとされた例 幼児(被害者)を引率していた「保育園の保育士」の監護上の過失
(最判昭42.6.27)

 

「過失相殺」をするかどうかを判断し、決定するのは、裁判所です。

c.消滅時効

不法行為に基づく「損害賠償請求権」も、一定期間行使しなければ、時効によって消滅します。
(724条)

不法行為に基づく損害賠償請求権の「消滅時効」の、
・起算点
・時効期間
・具体例
・・・は、次のとおりです。

  起算点 時効
期間
具体例
不法行為に基づく、
人の生命又は身体を害する
損害賠償請求権

【主観的期間】
被害者又は法定代理人が損害および加害者を知った時から
5年 ・交通事故でケガをした場合の損害賠償請求権
【客観的期間】
不法行為の時から
20年
不法行為に基づく、
損害賠償請求権

【主観的期間】
被害者又は法定代理人が損害および加害者を知った時から
3年 ・交通事故で大破した自動車の損害賠償請求権
【客観的期間】
不法行為の時から
20年

同じ「不法行為に基づく損害賠償請求権」であっても、人の生命・身体にかかわるものについては、より長い期間、損害賠償請求できるように、「消滅時効にかかる期間」が長くなっています。
これは、民法改正により、区別されました。

以上、契約以外の債権発生原因Ⅱとして、「不法行為」についての、

01 不法行為とは?
 a.不法行為の要件
  ①加害者に「故意」又は「過失」があること
  ②加害者に「責任能力」があること
  ③他人の「権利」又は「法律上保護される利益」を「侵害」すること
  ④損害が発生していること
  ⑤加害者の行為と被害者の損害との間に「因果関係」があること
  ⑥違法性阻却事由がないこと
02 不法行為の効果
 a.被害者以外の近親者の慰謝料請求
 b.過失相殺
 c.消滅時効
・・・についてでした。お疲れ様でした。
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